10 January
2008
11月例会の報告

犯罪報道の在り方変える機会に
  裁判員制度で、全国へアピールも
   07年11月の例会

 当ネットワークは2007年11月の例会で、2009年5月までに始まる予定の裁判員制度が犯罪報道にどのような影響を及ぼすのかを話し合った。裁判員制度については推進する考えと、制定の経過や制度の欠陥などから市民の参加を危惧する議論が出たが、これまでの警察の発表をもとにした犯罪報道の在り方を変える機会になるという見方では一致した。また、制度発足に当たって犯人視報道の見直しを東京、関西の有志とともにアピールできないか提案があった。
■報道で知っているかも材料に
 裁判員制度については会員が説明した。裁判の対象は殺人、強盗致傷など法定刑の重い事件で一審のみ。全国50の地裁と10の地裁支部で実施する。控訴が可能なので裁判員の判断が覆ることも予想され、この制度の意義が疑われる第1点だ。
 裁判体は裁判員6人、裁判官3人で構成。裁判員は選挙人名簿からくじで選ばれ、対象事件ごとに50-100人を呼び出し、辞退事由や裁判長の質問で6人を決定する。選任手続きでは裁判所が事件について報道を通じ知っているかを聞き、「どのように考えているか」「報道に左右されることなく判断できるか」などを尋ね決定の材料にする。評決の有罪は裁判員、裁判官それぞれ1人と、全体の過半数の賛成が必要。無罪は裁判員5人か裁判官3人の有罪不決定で足りることになる。
■08年9月に実質スタート
 2006年の事件を基にした最高裁の試算では、1年間で全国の有権者4160人に1人の割合で選ばれるが、大阪地裁管内では2560人に1人。呼び出しを受ける人はさらに高い割合になる。2008年9月1日まで、裁判所が市区町村の選挙管理委員会に割り当てる候補者数を決定し、制度が事実上スタートする。日本新聞協会は2007年12月に裁判員制度をめぐる取材・報道指針を発表する予定だったが、08年1月になるようだ。
■公正の妨げと報道を議論
 裁判員制度の設置を決めた司法制度改革審議会は「裁判員に対する報道の好ましくない影響」で数回言及があったが、先送りした。制度の具体案をつくる裁判員制度・刑事検討会で、裁判員法案の「裁判員の公正を妨げる行為の禁止」として①事件に関する偏見を生じせしめる行為や公正を妨げる行為を行ってはならない②報道機関はこれに配慮しなければならない―という「偏見条項」が提案されたが、報道機関側の反発と新聞協会の「自主ルールを作る」との表明で見送りとなった。
■マスコミに衝撃、最高裁総括裁判官の6項目懸念
 2006年12月に同検討会のメンバーでもあった土屋美明・共同通信論説副委員長が「裁判員制度と報道のガイドライン」試案を発表。無罪推定の原則を尊重し予断を与える恐れのある報道をしないとし、刑事裁判の進行中は①被告の人格を論評する②自白を明らかにする③コメントまたは論評の原則自粛―を挙げた。
 新聞協会は最高裁や日本弁護士連合会と意見交換の懇談会を開いてきたが、07年9月に福井市で開いた「マスコミ倫理懇談会全国協議会大会」で最高裁の平木正洋刑事局総括裁判官が講演で示した「6項目の懸念表明」はマスコミ側に大きな衝撃を与えたと言ってよい。「捜査機関から得た情報を事実のように報じる
」「被疑者・被告の自白を伝える」「有罪を前提とした有識者のコメント」などで、マスコミ側からは強く反発する意見が出され、とくに出版社の参加者「雑誌協会は自主ルールを作ると約束した覚えはない。裁判員制度自体に反対だ」と懸念を全面的に無視する態度を見せた。
■無罪裁判員を誹謗、中傷も
 以上が裁判員制度と報道をめぐる経過だ。では、どんな報道が予想されるかというと、希望的、好ましい方向として①報道機関が被疑者の氏名を含め、極めて抑制的、客観的な表現に努力する②捜査当局の措置のチェックに力を入れる―を
期待するが、悪い方向として①報道のスタイルが何も変わらず、捜査当局が発表しない個人情報も報じる②その結果、犯人視報道そのままの判決が続出するか、犯人視報道が法廷で疑問視される③無罪判決を出した裁判員を批判、誹謗する―この方が現実的にあり得そうだ、と会員の報告は結んだ。
■「市民参加を歓迎」「権利が義務にすり替わった」
 参加者の話し合いでは「この制度に対する批判も相当あるが、陪審制は戦前にもあった制度。市民参加の裁判制度は国際的な趨勢であり、戦後民主主義の下でこそふさわしい。ここで実現しないと50年先送りにもなりかねない」と積極的
に受け入れようとする意見の一方で、「裁判への被害者参加は、さらに厳罰化のムードをあおるだろう。死刑を求める署名など人民裁判化へ向かっている。量刑データを出し合うのはより厳罰化へ向かう恐れがある」と制度の行方を心配する
声が出た。
 「司法への市民参加について報道は伝えてこなかった」「報道自体が市民の成熟度を表す面があり、犯罪報道の在り方は変わらないのでは」と報道の責任を問
う意見も強く、「なぜ対象の罪が殺人などの重大犯罪なのか。政治家や役人の収賄罪を私たちに裁かせてくれないのか」と、制度が向かわせる意図への疑問も出た。
 さらに「報道が裁判官の心証に影響しないと裁判所はいうが、光市の母子殺人事件でも相当なプレッシャーが掛かっているはず。陪審制は大正デモクラシーの盛り上がりの中で制定され昭和の初めから始まったが、戦争が激しくなる過程で1943(昭和18)年に停止されたままになっていた。今度の裁判員制度は市
民が裁判に参加するという権利が、義務になってしまった」と制度の理念にも批判があった。
 参加者は、平木裁判官の言う6項目の懸念は当ネットなどが以前から指摘したことと重なっており「私たちなりの立場で主張していく」ことを確認。裁判員制度の下での報道の在り方を東京、関西の「報道と人権」グループとともにアピールする提案があり、次回の例会で引き続き検討することにした。(了)


カテゴリ: 活動報告 
投稿者: yamaken, 投稿時刻: 12:32 | コメント (0)
コメント
コメントはありません.
コメントの投稿